アンチイズム 感想

 

Flying Trip舞台「アンチイズム」12月18日昼の公演、観劇してきました。

以下ネタバレ感想。うろ覚えです。台本ほしかった。

 

 

 

 

  • タイトルの「アンチ」は「抵抗」と捉えるのが自然な気がします。人間の弱い部分をこれでもかと見せつける前半から、人々が少しずつ抵抗していく、弱い自分に立ち向かっていく後半。主人公である菜々も、人生に絶望し逃げるように死へと向かいますが、最後には生きることに意味を見いだします。みんな、どうしようもなく弱い人間のように見えて、どこか自分のなかにも彼らがいるような気がして、憎めなくて、応援したくなる。そんな不思議な気持ちにさせてくれる物語でした。個人的には、「ブラックダイス」を観たときから横井伸明さんの捉えどころのない雰囲気のお芝居が好きで、今作では最後に自分の罪をさらけ出すシーンがあってグッときました。人間臭い姿もやっぱりカッコよかった。(みたいな感想を、終演後ロビーにいらっしゃった横井さん本人にぐだぐだと述べてしまった。拙い感想を聞いてくださってありがとうございました。)。

 

  • 幽霊3人組のパートは、重苦しい雰囲気をぱっと明るくしてくれて、物語の中で大きな役割を果たしていたと思います。象徴的なのは、冒頭と終盤で繰り返された、クリスマスイブの自殺幇助のシーン。終盤のワンシーンを冒頭に持ってくる手法は見たことがありますが、冒頭では不気味だったシーンが、終盤では幽霊たちが可視化されることでコミカルなシーンになっていたのは見事な演出だと思いました。

 

  • そして主人公である菜々と、その幽霊たちとの関係性がこのお話の肝でした。信頼していた人々の裏切りによって、身も心も疲れ切っていた菜々にとって、明るい幽霊たちの存在は心の支えだったと思います。クリスマスケーキを振る舞おうとする姿がとても可愛らしくて、これが本来の彼女なのだと感じました。でも菜々と幽霊とは違う世界の住人で、決して触れ合うことはできない。菜々が抵抗する相手、立ち向かうべきものは「死」だと思うのですが、彼女にとって「死」は、つらい現実から抜け出す逃げ道というだけでなく、彼ら幽霊たちと一緒の世界で、ずっと一緒にいられること、すなわち「安らぎ」の世界だったのではないのでしょうか。菜々は誰よりも、その安らぎがほしかったはず…。だからこそ、彼女が最後にとった決断には、計り知れない意味があるのだと思います。「生まれ変わったら菜々の本探すよ!」って言葉が、とってもやさしくて好きです。幽霊たちの愛に触れて、菜々が生きることを選んだラストには、胸が熱くなりました。

  

  • ただ、菜々が会長に刃を向けられたとき、なぜ、間一髪で死ぬことを拒絶したのか、1回見た限りではわかりませんでした。あのときの彼女は、死を覚悟していたように見えました。何か決定的な部分を見逃しているのかもしれないし、明確に描かれてはいないのかもしれない…。なので、自分なりの解釈。僕はあのとき、とっさに菜々の「優しさ」が出たのではないか、と思いました。彼女は優しいのです。電車に身を投げようとしたときも「居合わせた人がトラウマになる」と考えて断念したり、入水自殺を図ったときも、先に川に落ちた人を助けようとしたり…。自分が絶望の淵に追いやられているときですら、他人のことに思いを巡らせることができる人です。だからあのとき、優しい彼女は、ギリギリのところで、自分が死ぬことで悲しい思いをする人がいることに気がついたのではないでしょうか。

  

  • いな民的な感想…あんちゃん大好きなので、基本的には菜々をガン見してました。「役者・伊波杏樹さん」のお芝居について、感じたことを少々。「ブラックダイス」でも感じてましたが、伊波さん、「不幸な境遇に置かれた人物」のお芝居がめちゃくちゃうまい。憧れの人や親友に裏切られ「ずるいよ…」と嘆くシーン、夢を奪われベッドで憔悴するシーン、様々な方法で自殺を試みるシーン…。瞳から光が消え、髪を乱し絶望に打ちひしがれる姿は、見ているだけで痛々しく、目を背けたくなりました。ラブライブで見せる快活な印象とはおよそかけ離れた、圧倒的な負のオーラ。登場人物の生々しい心情を追体験できるのが演劇の魅力の一つだと思うので、こんなふうに、ある意味トラウマを刻み込むようなお芝居ができるのは、役者として大きな強みだなあ、と感じました。あと、単純に感情移入しちゃうんですよね。お芝居に感情が込められるほど、見ている方も気持ちが入ってきて、応援したくなる。悲しいシーンをたくさん見てきたからこそ、人生に光を見いだしたときの希望に満ちた表情が、この上なく嬉しい。これからの彼女の人生がどうか幸せなものになってほしいと願わずにはいられない。そんなあたたかい気持ちにさせてくれる、素敵なお芝居でした。

 

  • 今回の反省…スケジュールの都合上1回しか観劇できなかったこと。地方に住んでいることは言い訳にはなりません。本作は特に、二度三度と観ることで更に面白くなっていくものだったと思うので、悔しさが残ります。Blu-rayはよ。

 

  • 最後に…自分が壁にぶつかったとき、自分の弱さと向き合うときに、そっと背中を押してくれるような、素敵な物語でした。スタッフ・キャストの皆様、ありがとうございました。